監修:うえだ小児科 院長 植田香子(小児科専門医)
「熱はとっくに下がったのに、咳だけが2週間以上続いている」「夜中になると咳き込んで、親子で眠れない」——9月の後半から10月にかけて、当院の外来でいちばん増えるご相談です。
実は秋は、1年のうちで子どもの咳が最も増え、ぜんそくの発作も起こりやすい季節です。ダニのアレルゲン、朝晩の気温差、新学期に広がる感染症といった要因が、ちょうどこの時期に重なるためです。
そして、長引く咳のなかには「風邪の治りかけ」ではなく、ぜんそくや別の病気が隠れていることがあります。この記事では、様子を見てよい咳と、小児科にご相談いただきたい咳の見分け方を整理しました。ご家庭でのチェックにお使いください。
この記事でわかること
- ・秋に子どもの咳が増える4つの理由
- ・「風邪の咳」と「ぜんそくの咳」の違い
- ・小児科にご相談いただきたい7つのサイン
- ・ぜんそく以外に考えられる、長引く咳の原因
- ・当院での診察の流れと、ご家庭でできる工夫
なぜ秋になると、子どもの咳が増えるのでしょうか
「季節の変わり目だから」と言われることが多いのですが、秋にはもう少し具体的な理由があります。
1. ダニのアレルゲンが最も増える時期だから
ダニは高温多湿の夏に増え、秋になると寿命を迎えます。その死がいやフンが細かく砕けて空気中に舞い、アレルギーの原因物質(アレルゲン)として最も多くなるのが、ちょうど秋です。寝具やカーペット、ぬいぐるみなど、お子さんが顔を近づける場所に多く含まれます。
2. 朝晩と日中の気温差が大きいから
子どもの気道は大人よりも細く、刺激に敏感です。冷たい空気を吸い込むだけで気道がきゅっと狭くなり、咳の引き金になります。日中はまだ暑くても、明け方に急に冷え込む日が続くこの時期は、特に影響を受けやすくなります。
3. 新学期で集団生活が再開し、感染症が広がりやすいから
秋はライノウイルスやRSウイルスなど、気道に炎症を起こすウイルスが動く季節です。ぜんそくのお子さんの場合、こうした感染症が発作のきっかけになることがよくあります。「風邪をひくたびにゼーゼーする」というお子さんは、この典型です。
4. 運動会シーズンで、体を動かす機会が増えるから
走ったあとに咳き込む「運動誘発ぜんそく」は、練習量が増えるこの時期に見つかることが少なくありません。「うちの子は体力がないだけ」と思われていたケースが、実はぜんそくだったということもあります。
「風邪の咳」と「ぜんそくの咳」は、ここが違います
見分けるポイントは、咳の強さよりも「いつ出るか」「どのくらい続くか」です。
続く期間
風邪による咳
1〜2週間で少しずつ軽くなる
ぜんそくを疑う咳
2週間以上続く/何度も繰り返す
出やすい時間帯
風邪による咳
日中も夜も同じくらい
ぜんそくを疑う咳
夜中から明け方に強くなる
音の様子
風邪による咳
ゴホゴホ、コンコン
ぜんそくを疑う咳
ゼーゼー、ヒューヒューが混じる
きっかけ
風邪による咳
発熱や鼻水と一緒に始まる
ぜんそくを疑う咳
走ったあと、笑ったり泣いたあと、冷たい空気
発熱
風邪による咳
出ることが多い
ぜんそくを疑う咳
熱がないのに咳だけ続く
季節性
風邪による咳
特に決まっていない
ぜんそくを疑う咳
毎年、同じ時期に繰り返す
なお、小さなお子さんは「ゼーゼー」がはっきり聞こえないこともあります。音がしないから大丈夫、とは限りません。
小児科にご相談いただきたい、7つのサイン
ひとつでも当てはまる場合は、一度診せていただくことをおすすめします。
1. 咳が2週間以上続いている
熱が下がったあとも咳だけ残っている場合も、受診の目安になります。
2. 夜中や明け方に咳き込んで目を覚ます
横になると咳が出る、というのも同じサインです。
3. 走ったあと、笑ったあと、泣いたあとに咳が出る
運動や大きく息を吸うことがきっかけで咳が出る場合、気道が刺激に敏感になっている可能性があります。運動会の練習や外遊びのあとに毎回咳き込むようであれば、一度ご相談ください。
4. ゼーゼー、ヒューヒューという音が混じる
呼吸のときに「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音が聞こえる場合は、気道が狭くなっているサインのひとつです。小さなお子さんでは音がはっきりしないこともあるため、咳の様子もあわせて確認することが大切です。
5. 熱もなく元気なのに、咳だけが長く続いている
風邪による咳は時間とともに軽くなることが多いため、発熱や鼻水が治ったあとも咳だけが続く場合は、ぜんそくなど別の原因が隠れていないか確認する目安になります。
6. 毎年、季節の変わり目に同じことを繰り返している
「秋になると毎年咳が長引く」「季節の変わり目になると夜中に咳き込む」といった繰り返しは、原因を考えるうえで大切な手がかりです。昨年や一昨年の症状も、ぜひ診察時にお聞かせください。
7. ご家族にぜんそく、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎の方がいる
ぜんそくやアレルギー疾患には、ご家族の体質が診断の参考になることがあります。ご家族にぜんそく・アトピー性皮膚炎・アレルギー性鼻炎がある場合は、受診時にお伝えください。
とくに⑥は見落とされやすいポイントです。「去年の秋も、こんなことがあったな」と思い当たる場合は、そのご記憶が診断の大きな手がかりになります。
この様子が見られたら、すぐに受診してください
- ・息を吸うとき、肋骨の間やのどの下がベコベコとへこむ
- ・肩を上下させて、苦しそうに息をしている
- ・横になれず、座っているほうが楽そうにしている
- ・咳き込んで、話すことや泣くことが途切れてしまう
- ・顔色や唇の色が悪い
- ・水分がとれない、ぐったりしている
診療時間外であれば、休日夜間急病診療所や救急外来へご相談ください。迷われたときは、小児救急電話相談「#8000」もご利用いただけます。
長引く咳は、ぜんそくだけとは限りません
咳が続くとき、私たちは次のような病気も念頭に置いて診察しています。似た症状でも対応が変わるため、自己判断で市販の咳止めを続けるより、一度原因を確かめておくほうが安心です。
副鼻腔炎・アレルギー性鼻炎による後鼻漏
鼻水がのどの奥に流れ落ちることで、咳が出ます。横になったときや朝起きたときに咳き込むのが特徴で、ぜんそくとよく間違われます。
百日咳
2025年は全国で報告数が過去最多となり、2026年も例年より高い水準が続いています。学童期から10代のお子さんに多く、コンコンと連続して咳き込むのが特徴です。とくに1歳未満、なかでも生後6か月未満の赤ちゃんは重症化することがあるため、ごきょうだいから小さな赤ちゃんへうつさないよう注意が必要です。予防には生後2か月からの定期接種が有効です。
マイコプラズマ感染症
熱が下がったあとも、乾いた咳がしつこく残ることがあります。学校や園で広がりやすい感染症です。
そのほか
学童期のお子さんでは、眠っている間はまったく咳が出ないタイプの咳(心因性咳嗽)がみられることもあります。また、乳幼児で何の前ぶれもなく突然咳き込みはじめた場合は、小さなものを気道に吸い込んでいる可能性も考えます。
当院での診察の流れ
咳の診察でいちばん大切なのは、実は問診です。診察室では咳が出ていないことも多いため、ご家庭での様子を教えていただけると、診断の精度が上がります。
- ・問診:いつから続いているか/どの時間帯に強いか/どんなときに出るか/過去に同じことがあったか/ご家族のアレルギー歴
- ・診察:聴診で気道の音を確認し、のどや鼻の状態、呼吸の様子を診ます
- ・必要に応じた検査:感染症が疑われる場合の検査や、アレルギーの関与を調べる検査などをご相談のうえ行います
- ・治療方針のご説明:診断と、ご家庭で気をつけていただきたいことをお伝えします
受診前に、「咳が出た日と時間帯」を数日分メモしていただけると、とても参考になります。スマートフォンで咳き込んでいる様子を録画してお持ちいただくのも有効です。
よくいただくご心配について
「吸入のステロイドは、体に影響しませんか」
ぜんそくは、発作のときだけの病気ではなく、気道に炎症がくすぶっている状態が続く病気です。そのため、発作を抑えることと同じくらい、日ごろから炎症を落ち着かせておくことが大切になります。
吸入薬は気道に直接届くため、飲み薬に比べて必要な量が少なくてすみます。ご心配な点は遠慮なくお尋ねください。使い方や量については、お子さんの状態を診たうえで一緒に決めていきます。
「咳が治まったので、薬をやめてもいいですか」
症状が落ち着いても、気道の炎症はしばらく残っていることがあります。自己判断で中止すると、次の季節の変わり目にぶり返してしまうことが少なくありません。やめどきについては、必ず診察のうえでご相談ください。
ご家庭でできる、秋の咳対策
薬と並んで大切なのが、咳の引き金を減らすことです。この時期は、次の3つを意識してみてください。
寝具のダニ対策を優先する
お子さんが1日のうち最も長く顔を近づけているのは寝具です。シーツやカバーは週に1回を目安に洗濯し、布団は乾燥させたうえで掃除機をゆっくりかけると、死がいやフンを取り除けます。よく抱いて眠るぬいぐるみも、洗えるものは定期的に洗いましょう。部屋の湿度は50%前後が目安です。
朝晩の冷え込みに備える
明け方に室温が下がりすぎないよう調整し、登園・登校時にはさっと羽織れるものを持たせてあげてください。冷たい空気を急に吸い込まないよう、外に出る前にひと呼吸おくだけでも違います。
咳の様子を記録しておく
「何時ごろに」「どんなときに」出たかがわかると、原因を絞り込みやすくなります。カレンダーへのひと言メモで十分です。
よくあるご質問
Q. 咳止めのお薬だけいただくことはできますか?
咳は、原因によって効くお薬が変わります。ぜんそくの咳に一般的な咳止めはあまり効かず、かえって受診が遅れてしまうことがあります。まずは原因を確かめさせてください。
Q. ぜんそくと診断されたら、ずっと薬を続けるのでしょうか?
お子さんによって経過はさまざまです。成長とともに落ち着いていくお子さんも多くいらっしゃいます。症状の様子を見ながら、少しずつ調整していくのが基本の考え方です。
Q. 咳が続いていますが、園や学校は休ませるべきですか?
感染症による咳かどうかで判断が変わります。診断がついていない段階で長く続く咳は、一度ご相談ください。登園・登校の目安についてもお伝えします。
咳が長引いてご心配なときは、うえだ小児科へ
「これくらいで受診してもいいのかな」とためらわれる必要はありません。長引く咳の原因をはっきりさせておくことは、お子さんが夜ぐっすり眠れるようになる近道です。気になることがあれば、どうぞお気軽に当院へご相談ください。

